Home ブログ INTERVIEW SERVICE なぜ17年続いたのか。『ヨガジャーナル日本版』100号、編集長が語る軌跡

なぜ17年続いたのか。『ヨガジャーナル日本版』100号、編集長が語る軌跡

日本のヨガ人口は約600万人(「社会生活基本調査」(総務省統計局)の令和3年調査を基に算出)ともいわれるなか、17年続く専門誌『ヨガジャーナル日本版』が100号を迎えました。2026年3月には、読者・インストラクター・広告主が一堂に会した記念パーティーと、同誌が主催するウェルネスアイテムアワード「YJ Wellness Item award 2026」の授賞式も開催しました。

紙離れが進み、ライフスタイルも大きく変化するなかで、なぜこのメディアは17年にわたり支持され続けてきたのか。編集長・古川に、その理由と背景にある編集思想を聞きました。

雑誌『ヨガジャーナル日本版』 編集長 / 古川 久美子

 

原点は「誰にでもわかること」

——ヨガジャーナルに関わることになったきっかけを教えてください。

2017年に前社(セブン&アイ出版)に入社し、ヨガジャーナル編集部に配属されました。編集長に就任したのは2019年で、今年で7年目です。
※2020年2月、セブン&アイ出版よりインタースペースへ事業譲受

入社当初は本誌ではなく、『ヨガジャーナルビギナーズ』という新媒体の立ち上げを担当する予定でした。ただ、本誌と読者層が近く差別化が難しかったため、最終的に本誌へ一本化され、そこから本格的に関わるようになりました。

右)1号 左)100号

 

——当時、どんな課題を感じていましたか?

編集していると「これくらいみなさん知っているだろう」という感覚になり、ヨガ用語や筋肉名をそのまま使ってしまいがちになります。私が編集長に就任した際、当時の部長から「表紙に書いてある言葉が呪文みたいでなんだか怖い」と言われたことがありました。部長の言う“呪文みたい”な言葉というのが、ヨガの代表的なシークエンス「太陽礼拝」のことだったのですが、「それって何?」と。その言葉をきっかけに、私たちは初心者向けの媒体であるという原点に立ち返りました。ヨガになじみのない人にでも、どんな記事なのかわかってもらえるというのが、今も変わらず意識し続けている点です。

 

——変えたこと、変えなかったことは?

変えなかったのは、「ヨガ初心者でもわかる」誌面づくりです。就任時に改めて意識したのは、ヨガとの向き合い方そのものでした。ヨガをしているとどうしても「このポーズができるようになりたい」という欲が出てきますが、ポーズをとること自体を目的にするのではなく、「心身ともに健康になるため、幸せになるためのツールとしてヨガをする」というヨガ本来の目的を、誌面を通して改めて読者に届けたいと考えました。

ヨガを始めたばかりの人にも、長く続けてきた方にも、その原点が伝わる誌面にしていきたいという思いがあります。

 

紙とデジタルは競合しない。”一つの世界観”の中で役割を分ける

——市場の変化をどう見ていますか?

創刊当時はヨガブームもあり、雑誌は非常に好調でした。近年は情報のデジタルシフトが進み、以前の販売部数には及ばないのが実情です。雑誌業界全体でも昨対90%台が続いています。

一方で、オンラインメディア「ヨガジャーナルオンライン」は好調に推移しています。インタースペースに運営が移ってからは、デジタルの知見と女性メディア(ママスタ・4MEEEなど)で培ったノウハウを組み合わせ、移管から1年でPVは約3.5倍に成長しました。

今は「雑誌かオンラインか」という二項対立ではなく、一つのヨガジャーナルという世界観の中に複数のメディアが存在していると捉えています。雑誌はヨガをじっくり深掘りする場、オンラインはウェルネス全般を幅広く届ける場です。YouTubeチャンネルは登録者が10万人に達し、ヨガジャーナル独自のサブスクのレッスンも展開しています。それぞれが特性を活かしながら有機的に機能している点が、今のヨガジャーナル事業の強みだと思っています。

 

——最大の転換点は?

2020年〜2023年のコロナ禍です。YouTubeやInstagramのライブ配信を通じてヨガを届ける人が増え、自宅にいながら世界中の指導者のレッスンを受けられる環境が一気に整いました。肌感では、今は対面よりオンラインでヨガをしている人の方が多いのではないかとさえ思っています。ヨガの可能性が大きく広がった転換点でした。

 

——インタースペースへの移管は、編集にどんな変化をもたらしましたか?

 出版社にいた頃は、雑誌をつくることそのものが仕事だという感覚でした。インタースペースに来てからは、オンラインメディアの強さを肌で感じるようになりました。紙は一度発行すると、その後の売り上げはある程度決まりますが、オンラインは工夫次第で後からでも伸ばすことができます。そうした違いを実感したことで、雑誌づくりに対する考え方自体が変わりました。「出して終わり」ではなく、「どう届けるか」までを含めて設計するようになったと思います。

 

ヨガのポーズを伝えるだけでなく、“なぜそれをやるのか”まで届ける

——企画はどのように生まれるのですか?

『ヨガジャーナル日本版』の読者は、ヨガ歴3年未満の初心者と10年以上のベテランが多い構成で、その中間層が案外少ない。初心者には参考書として、インストラクターには教科書として使ってもらっているということの表れだと思っています。

企画会議の前には、必ずヨガインストラクターを集めた座談会を複数回実施して、現場のリアルな声を企画に反映させています。たとえば、あるホットヨガのインストラクターから「レッスンの締めくくりに行うシャヴァーサナ(横になって全身を休める、たいていのヨガレッスンの最後に必ず行われるポーズ)の最中に、生徒さんが立ってシャワーに行ってしまうことがある」という話を聞いたことがあって。その話が座談会で大いに盛り上がって、シャヴァーサナというポーズが持つ意味から指導者ごとのこだわり、正しい行い方までを掘り下げた6ページの特集につながり、読者からも高評価を得ました。一見、ただ横になっただけに見えるポーズについて、これだけのページ数を割くというのは編集部だけでは思いつかず、座談会がなければ生まれなかった企画です。

 

——大切にしている編集スタンスを教えてください。

監修者の考えを、できるだけそのまま、正確に読者に伝えることです。取材後、撮影後、校正後と何度もやりとりを重ね、監修者の意図が正確に伝わるよう、編集部全体で努めています。企画によっては医師や理学療法士など他分野の専門家にも取材し、一つのテーマを多角的に掘り下げています。雑誌としてお届けする以上、できるだけ「そのポーズをするのはなぜか」というエビデンスまで伝えたい。それが私たちの編集スタンスの根底にあります。

 

消費を“貢献”に変えるメディア設計

—— YJ Wellness Item awardを始めたきっかけを教えてください。

読者から「ヨガの先生が使っているシャンプーを知りたい」「何を食べているか知りたい」という声が以前から多く寄せられていたことがきっかけです。そうした声に応える形で、ヨガインストラクター100名が、エントリーされたウェルネスアイテムをリアルに使って良かったものを選ぶ「YJ Wellness Item award」を立ち上げました。

ヨガを続けるうちに、ヨガの時間以外でも体と心にいいものを選びたいと考える方が増えていきます。それならば、ヨガに精通した人たちに本当にいいと思うものを忖度なく選んでもらい、そのまま伝える。それが読者にとって有益な情報になると思いました。

 

——なぜ「インストラクター100名が選ぶ」という設計にしたのでしょうか?

ヨガ指導者は、身につけるものや口にするものへのこだわりが強い方が多いと感じています。そうした方々が100名集まることで、ヨガジャーナルにしかできない新しい価値を提案できると考えました。今年からはヨガインストラクターのみに対象を絞り、アワードの純度をさらに高めています。

 

——アワードへの反響はいかがですか?

エントリー数は前年から大幅に増加しています。第1回(2025年)の10アイテムから、第2回(2026年)は32アイテムへと3倍以上に拡大しました。受賞ブランドに発行している認証マークについても、昨年使用したクライアントの中には、今年も継続を希望する企業もあり、「ヨガインストラクター100名が選んだ」という事実が市場での信頼の証明として機能し始めています。

 

——このアワードを通じて実現したいことは?

ヨガには、日々の行いそのものを大切にするという考え方があります。買い物も、その一つです。ただ安いから選ぶのではなく、環境に配慮した企業や、社会に還元される商品を選ぶ——そうした選択の積み重ねが、社会課題の解決につながっていくと考えています。

ものを買うことが、単なる「消費」ではなく「貢献」になる世界をつくりたい。そのための一つの基準として、YJ Wellness Item awardが機能していけばと考えています。ヨガをしているときのような、穏やかで平和な感覚が社会にも広がっていけば嬉しいです。

 

紙だから届く、信頼と体験

——デジタル全盛の今、紙の雑誌の役割をどう捉えていますか?

手触りがあること、フェイクがないこと。紙の雑誌には、人間が本来持っている身体的な欲求を満たす力があると思っています。オンライン上にフェイクや生成AIのコンテンツが氾濫するなかで、誠実につくらざるを得ない紙の雑誌の価値はこれからむしろ見直されていくのではないでしょうか。

情報の見せ方という点でも、デジタルの記事は上から下へ順番に読み進める構造ですが、雑誌は全部読まなくても視覚的に情報がバッと入ってくる。いわば”情報を直感的に届ける”力がある。それが紙の得意分野です。

 

——ヨガジャーナルならではの体験価値とは何でしょうか?

私たちの強みは、雑誌・オンライン・コミュニティ(読者組織「ヨガジャーナルフレンズ」)の三つが揃っていることだと思っています。雑誌チームはヨガの可能性を突き詰めて、オンラインのチームはウェルネス全般を幅広く届ける。それぞれが役割を持ちながら、「ヨガを通じてウェルビーングな社会を実現する」という一つのミッションのもとで有機的に連携しています。一見バラバラに見えても、一本の軸でつながっている。それがヨガジャーナルとしての独自性だと感じています。

 

ヨガは、高齢社会のインフラになる

——100号という節目をどう受け止めていますか?

歴代の編集長・編集部員、監修者やスタッフの皆さま、そして理念に共感してくださる広告クライアントの皆さまのおかげで、この節目を迎えられたことに心から感謝しています。

ここがゴールではありません。101号、102号と、1号1号を誠実に積み重ねていくことが、現編集部の使命だと考えています。

 

——今後の展望を聞かせてください。

創刊18年目に入り、読者の平均年齢も上がってきました。現在、日本は総人口の3分の1が65歳以上という超高齢社会を迎えています。そのなかでヨガが社会福祉に果たす役割は、今後さらに大きくなっていくと考えています。どの年代の方にとっても「よりよく生きるためのツールとしてのヨガ」を伝え続けていく。それがヨガジャーナルの変わらない方向性です。

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