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人への投資は、競争力になるのか

キャリアオーナーシップ経営AWARD受賞。6年間の対話が、“自ら動く組織”をどう育てたか 

今年5月、インタースペースは「キャリアオーナーシップ経営AWARD 中小企業部門 奨励賞」を受賞しました。 

評価いただいたのは、2021年にトライアルを経て、2022年より全社展開した、HR戦略推進室のメンバーがコーチとなり希望者と半年間 1対1のコーチングを実施するプログラム「コーチングマラソン」を中心とした人的資本への取り組みです。 

コーチングを通じて、一人ひとりの自主性を高め行動変容を促していく。そうした取り組みを続ける中で、組織にはどんな変化が生まれたのか。 

今回は、制度そのものではなく、その背景にある考え方や、実際に現場で起きてきた変化について、執行役員 HR戦略推進室長の小林に話を聞きました。 

 執行役員 HR戦略推進室長 小林 剛士 

 

 

「やってきたことは間違っていなかった」と思えた 

――受賞式に実際に立ってみて、どうでしたか。 

率直に言うと、やってきたことが間違っていなかったんだなという自信と励みになりました。 

今回のアワードは、パーソルさんが運営事務局として開催されていて、審査員は業界に精通された方々でした。受賞されていた他の企業さんも、大手企業はもちろん、各地域でしっかり経営をされている成長企業が多かったです。 

そういう方々と同じ場に立って講評を聞いていると、「自分たちもすごいことをやってきたんだな」と改めて実感しました。たまたま受賞したのではなく、取り組みの中身を見てもらった上で評価していただけたという手応えがありました。 

「やってください」だけでは、組織は変わらない 

――そもそも、なぜこの取り組みを始めたのでしょうか。 

「キャリアオーナーシップ経営」という言葉があって、それを最初からやろうと思っていたわけではありません。出発点はもっとシンプルな課題感でした。 

私が入社したのは2012年10月で、当時から多くの社員と話をする中で、育成がかなり属人的で、体系的なものがほとんどない状態だと感じていました。そこから管理職研修を入れたり、コーチングやフィードバックのカリキュラムを整備したりと、いろいろな取り組みを進めてきました。実際、育成に取り組んでいる人や組織には、エンゲージメントスコアや業績面でもポジティブな変化が出ていたんです。 

ただ、難しかったのは浸透でした。コーチングを「やってください」と管理職にお願いしても、自分自身が受けたことのないものを実践するのは簡単ではない。研修で学んでいても、現場で実践するには大きなギャップがありました。 

そうした課題を上長と話していた時に、「それであれば、人事が一人ひとりと直接話してみたらどうだろう」というアイデアが出てきたんです。企画をまとめて提案し、「じゃあやってみよう」と始まったのがコーチングマラソンでした。最初は広告事業の希望者向けにトライアルから始めて、そこで手応えを感じて、少しずつ広げていきました。それが約6年前のことです。 

 

――参加を「自発的応募」のみにした理由は。 

誰かに言われたから参加するのでは効果が薄いと思っているからです。 

当社は無形の商材を扱っている会社で、営業も開発もディレクションも、最終的には「人の行動」が価値を生み出します。 だからこそ、社員一人ひとりが自分で考え、選択し、自主的に動けるようになることが重要だと考えていました。 

自発性・自主性が、行動の量を増やし、質を高めていく。それが結果として事業成長や競争力につながるという考え方で、これまで取り組みを続けてきました。 

 

対話が、「特別なもの」ではなくなった 

――6年間で、組織や社員にどのような変化が生まれましたか。 

一番大きいのは、コーチングが組織の中に「当たり前のもの」として浸透してきたことだと思います。当時は、「コーチングって何?本当に意味があるの?」という声もありました。今では、対話を通じて相手の行動を引き出していくという考え方が、自然に受け入れられるようになっています。この変化は数字には表れにくいですが、組織にとってはかなり大きな変化だと感じています。 

数字で見ると、これまで累計200名超(ユニーク118名)が参加し、そのうち26名が昇格、22名が社内表彰を受賞しています。NPS平均が9以上という数字からも、参加者の満足度や納得感は高かったと思っています。 

また、コーチングを受けた人たちがマネージャーや局長になって、今度は自分がコーチングする側に回っている。そういう循環が生まれてきていることも、大きな変化の一つです。「対話を通じて相手の行動を引き出す」というマネジメントスタイルが管理職の間で広がってきていて、そうしたマネージャーのチームは結果にもつながっている実感があります。 

管理職からも、「自分で期限設定をして動けるメンバーが増えた」という声をよく聞くようになりました。以前と比べると、自主的に動く人が増えてきているように感じています。 

 管理職向けアンケートでも、「別のメンバーにも受けてほしい」という声が継続的に上がっています。「周囲から話を聞いて参加したいと思った」という口コミも続いていて、制度として定着してきている実感があります。 

 

自主性は、「昇格意欲」だけがもたらすのではない 

――取り組みを進める上で、難しかったことや変えたことはありますか。 

みんながみんな、明確な目標を持っているわけじゃないというのが、一番難しいところです。仕事をなんとなくこなしていたり、将来どうなりたいかもまだ見えていなかったり。そういう状態の人に対してコーチングをするのは、管理職にとっても難しいケースだと思います。 

昇格を目標にしようとしても、本人がそこを望んでいないこともあります。「昇格したら忙しくなりそうだし、そんなに忙しくなりたくない」という人も実際にいます。 

ただ、対話を重ねていくと、どんな人でも仕事に対する思いは出てくるんです。 どんな時にやりがいを感じるのか、誰かに必要とされたいのか。価値を提供して貢献している実感が欲しいのか。当社には「人のためになりたい」という気持ちを持っている人が多いと感じています。 

向上心がないわけではなくて、それが必ずしも「昇格」という方向に向いていないだけなんです。今よりもっと価値を出したい。より大きな貢献ができるようになりたい。そうした気持ちは、対話を重ねていくと自然と出てきます。 

コーチングは、相手の中にある思いや欲求を引き出し、それを組織の目標とつなげていくものだと思っています。 

昇格しなくても、生き生きと働ける人はいる。一人ひとりが自主的に動けるようになること自体が、組織にとって大きな価値になると思っています。 

 

――印象に残っている社員の変化はありますか。 

アンガーマネジメントが苦手で、上司と衝突してしまうことを悩んでいた社員がいました。昇格意欲もあって能力も高いのに、彼なりの正義感から上司の言動に対してイラッとしてしまい、それが反抗的な態度として出てしまうという本当にもったいない状態だったんです。 

コーチングマラソンでは、ABC理論という認知行動療法の考え方を軸に一緒に取り組みました。何か事象が起きた時に、それをどう感じたのか、どういう行動を取ったのか。違う解釈はできないか。相手の立場からするとどういう意図があったのか。そうしたことを、一つひとつの出来事に対して繰り返し対話を重ねていきました。 

その結果、何か起きた時に瞬発的に反応するのではなく、一度立ち止まって俯瞰して考え、相手の意図を確認しにいくという行動に変わっていきました。上司との関係も少しずつ良くなって、自分の振る舞いも変わっていった。その結果、周囲からの評価も変わり、最終的にはマネージャーになりました。 

根っこの性格そのものは簡単に変えられませんが、取る態度はトレーニングで変えられる。半年間でそこまで変化するのを目の当たりにした時、コーチングの力を改めて実感しました。 

 

人的資本への投資は、「個人のスキルアップ」を目的にしていない 

――人的資本への投資を、経営としてどう捉えていますか。 

大事なのは、事業数字や会社の経営指標にポジティブな影響を与えることだと思っています。 

もちろん、「この施策を入れたから売上がこれだけ伸びた」と単純に説明できるものではありません。変数も多く、因果関係をきれいに示すのは簡単ではないです。 

ただ、人の力が伸びることで事業の数字にも変化が出てくるという相関を、定性的にも定量的にも示していく必要があると思っています。 

人的資本への投資は、単にスキルや知識を増やすことが目的ではありません。業務での行動変容につながり、最終的に会社の成長につながっていくことが重要だと思っています。 

 

――コーチングマラソンは、事業の競争力にどうつながると考えていますか。 

キーワードは「自主性」だと思っています。指示通りできることも素晴らしいのですが、「指示に従うこと」自体が目的になってしまうと、変化が大きい環境では対応しきれない場面も出てきます。 

キャリアオーナーシップを一人ひとりが持つことで、「この仕事を通して何を実現したいのか」という意思が生まれます。やり遂げたいという気持ちも生まれる。それが、自ら動こうとするエネルギーになると思っています。 

もちろん、自主的であれば必ず成果が出るわけではありません。能力や知識が不足していれば結果につながらないこともあるし、戦略が間違っていれば、事業成長にはつながらない。ただ、どれだけ良い戦略があっても、目的に向かって行動し続ける力がなければ、質の変化は生まれない。そういった意味で、自主性というものが競争力の源泉になっていくんだと思っています。 

 

人への投資を、どう企業価値につなげるか 

――今回の受賞を、今後どのように企業価値向上へつなげていきたいですか。 

人材開発に力を入れている会社であることを、社外に伝えていける機会だと思っています。発信を続けていくことで、自主的な人材や自己実現をしたい人がインタースペースに集まってくる。そうした人材が増えることは、株主や投資家の方々の期待にもつながると思っています。 

今後は、人への投資によって行動の量や質がどう変化しているのかを、より定量的に示していきたいと思っています。そこが見えるようになれば、「この会社はもっと成長していきそうだ」と感じてもらえるはずです。 

現状はまだ定性的な説明が中心ですが、だからといって諦めるつもりはありません。数字で示せる部分を少しずつ増やしていくことが、次のステップだと思っています。 

企業への期待が高まることは、企業価値の向上にもつながっていくと思っています。だからこそ、社内外への発信を続けながら、同時に実績も積み上げていきたい。その積み重ねによって、インタースペースへの期待をさらに高めていければと思っています。 

 

一人ひとりの自主性が、組織の価値になる 

――最後に、キャリアオーナーシップ経営を進めた先にどんな会社にしたいか、改めて聞かせてください。 

個人にはそれぞれの人生があって、その中でインタースペースという場所を選んでいる。ここで自己実現ができて、一人ひとりが充実感を持って働けることが大事だと思っています。 

組織としても、そうした個人の行動の総量や質が高まることで、顧客やステークホルダーに提供できる価値が増えていく。結果として、インタースペースという会社そのものも成長していけると思っています。 

関わるすべての人にとって、より良い状態をつくっていきたい。そのためには、自分たちで変化を生み出し、その変化を乗りこなしながら、より高い価値を提供し続けていくことが必要です。 

その中で、一人ひとりがやりがいを感じながら働き、成長していける。そんな循環を、これからも作り続けていきたいと思っています。 

 

 

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